大判例

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東京高等裁判所 平成10年(行コ)198号 判決

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人石井稔、同石井芙美江、同石井功、同石井俊之、同石井司、同樋口礼子及び同石井守に対し、被相続人亡石井浅次郎(以下「亡浅次郎」という。)に係る相続税について、平成五年四月七日付けでした更正処分のうち、各課税価格二億一五一三万三〇〇〇円、各相続税額八六三九万三〇〇〇円を超える各部分、控訴人石井初江、同石井昭彦及び同石井正行に対し、右相続税について亡石井聰の納税義務の継承人として同日付けでした更正処分のうち、各課税価格二億一五一三万三〇〇〇円、各相続税額八六三九万三〇〇〇円を超える各部分、控訴人石井靖雄、同保泉純子に対し、右相続税について同日付けでした更正処分のうち、各課税価格一億〇七五七万六〇〇〇円、各相続税額四三二万〇三〇〇円を超える各部分、及び控訴人らに対し、同日付けでした右更正処分に係る各過小申告加算税賦課決定処分を、いずれも取り消す。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件は、亡浅次郎の相続人である控訴人ら(ただし、控訴人石井初江、同石井昭彦及び同石井正行の三名は、亡浅次郎の相続人であった亡石井聰の相続人である。右三名の被相続人であって、かつ、亡浅次郎の相続人であった亡石井聰は、後記本件各処分後に死亡したため、同人の納税義務は控訴人初江ら右三名に継承された。)が、被控訴人に対し、亡浅次郎の相続に係る相続税についての更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以上の各処分を「本件各処分」という。)のうち、亡浅次郎の各相続人ら申告に係る各税額等を超える各部分の取消しを求めた事案である。

その余の事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりである(正、原判決四五頁一〇行目の「堅個」を「堅固」に、原判決添付別紙6(別表2)の「不整形地補正率表」中「普通住宅地区」の「C」欄の「45%未満」の補正率が「0・9」とあるのを「0・95」に改める。)。

原審は、控訴人らの本件請求をすべて棄却した。

当審における争点(本件各処分の違法事由)も、原審と同様であって、

1  更正事由の存否

(一)  土地の評価方法

(1) 不整形地による補正の要否、程度

(2) 租税特別措置法六九条の三の適用の有無

(二)  建築中の家屋の評価方法

2  本件各処分の理由付記の要否

にある。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人のした本件各処分はいずれも適法であり、控訴人らの本件請求はすべて理由がないものと判断する。その理由については、次のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりである(ただし、原判決七〇頁一〇行目の「記載のとおり」を「記載のとおりであり」に改める。)。

一  本件係争宅地の評価(不整形地による補正の要否、程度)について

控訴人らは、被控訴人が評価の根拠とした本件情報(「不整形地補正率について」と題する平成四年三月三日付け資産評価企画官情報。乙三)の合理性が明らかでなく、したがって、本件情報に基づいて算定した不整形地補正率表を適用し、路線価を基に算定した本件係争地宅地(AないしE土地)の価額と時価との関係も明らかでない旨主張する。

しかしながら、そもそも相続税法二二条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得時における時価によることと規定しており、課税庁が相続財産を評価するに当たって、右にいう「時価」を超えない限り、その評価額が適法であることはいうまでもない。そして、相続税法では、特別に定めるもの以外の財産については具体的な評価方法を規定していないことなどから、課税実務上では、特段の事情のある場合を除き、財産評価の一般的基準として評価通達(乙一)に基づき統一的、画一的評価方法によって財産の評価を行っているところ、右評価通達においては、宅地についてはいわゆる路線価方式によることとされているが、路線価は、地価公示価格の約七〇ないし八〇パーセントを目処として定められていることなどからすると、右評価通達による財産評価は時価を超えない範囲での評価として、合理的で有効な評価方法であるということができる。ところで、右評価通達においては、評価すべき土地が不整形である場合には、不整形の程度等の諸事情に応じ、路線価から一〇〇分の三〇の範囲内で相当と認める金額を控除した価額によって評価することとされているが、その具体的算定基準が定められていないことから、それまで経験則にしたがって決定していた不整形地補正率を、課税の公平、簡素化の観点から、統一的に算定するために公表されたのが本件情報であり、それは、単に宅地の形状だけではなく、宅地の存する地区や不整形の程度、位置、地積の大小等、数多くの要素を考慮して不整形地補正率を定めるものとされているのであって(乙三)。当該相続財産の時価評価の方法に関するものとして合理的なものであるということができる。そして、本件情報に基づき、本件係争宅地に係る不整形地補正率を算定した上で算定された当該各宅地の評価額がいずれも合理的なものであって、時価を上回るものではないと認められることは、原判決判示のとおりであり、したがって、控訴人らの右主張は採用することができない。

なお、控訴人らは、本件情報の遡及的適用によって増税となっていることは違法である旨をも主張するが、右の主張は、控訴人らの本件申告を担当した控訴人らの小池税理士が過去に申告に関与した類似事例に基づいて算出したとする不整形地補正率が正しいことを前提としたものであるところ、右小池税理士が算出したとする不整形地補正率に合理性を認めることができないことは、原判決判示のとおりであり、この点に関する控訴人ら主張も採用することができない。

二  土地の評価方法(租税特別措置法六九条の三の適用の有無)について

控訴人らは、同条項の適用に当たっては、専ら個人の生活基盤の保護に重点を置いて解釈すべきであり、この観点からすると、本件F土地については同条項の適用を認めるべきである旨主張する。

しかしながら、同条項は、事業の用に供されていた宅地のうち必要最小限の部分については、相続人等の生活基盤の維持や個人事業の継承のため欠くことができないことや、事業が雇用の場であり取引先等と密接に関連しているなど処分面での制約があることを考慮し、特に事業用宅地の評価に当たって居住用宅地に比し高い割合の減額を行うことができるようにしたものであり、あくまで事業性という要素を介して個人の生活基盤の保護を図るべきものと解すべきであって、右の観点に立って本件F土地の利用状況等の詳細を検討すると、同土地に事業性を認めることはできず、したがって、同条項を適用することはできない。この点に関する前記控訴人の主張は独自の法解釈に基づくものであり、採用できない。

三  建築中の家屋の評価方法について

控訴人らは、建築中の家屋の評価方法として、投下資本の額を基礎にこれから三〇パーセントを控除して算定するという被控訴人主張の評価方式は、一般に完成建物の投下資本額は、その固定資産額を大幅に上回るものであり、完成建物と未完成建物との評価の均衡を図る観点からすると、右の控除率は低率に過ぎる旨主張する。

しかしながら、そもそも控訴人が三〇パーセント以上の控除率が相当であるとする根拠自体明確でないのみならず、先にその合理性を有することに触れた前記評価通達によれば、家屋の価額は、当該家屋の固定資産評価額に所要の調整をして算出するが、課税時期において現に建築中の家屋の価額については、当該家屋の費用現価の一〇〇分の七〇パーセントに相当する金額によって評価することとしており、右費用現価とは、課税時期までに投下された建築費用の額を課税時期の価額に引き直した額の合計額をいうものと解されることは、原判決判示のとおりであり、また、相続財産の評価は、相続開始時における時価によるべきものであり、相続開始時に建築中である家屋について相続開始時には未だ明らかになっていない完成後の価額に基づいて評価することは非現実的である上、相続財産評価の原則に反するものであることも、原判決判示のとおりである。控訴人らは、被控訴人主張に係る評価方式によると、完成建物と未完成建物との評価の均衡がはかれない旨主張するが、右にみたとおり、建築中の家屋と完成後の家屋については、相続財産評価の原則に照らし、自ずとその各評価方法を異にする理由が認められるのであり、そうである以上、投下資本額による評価額が完成後の家屋の評価額である固定資産税評価額と異なる場合の生じることは避けられないのであって、たまたま完成後の家屋の固定資産税評価額が投下資本の額を下回る場合があるからといって、被控訴人主張に係る前記評価方式が不合理であるとはいえない。控訴人らの右主張も採用することができない。

四  本件各処分の理由付記の要否について

控訴人らは、更正処分に理由附記が要求されるのは、法定手続の保障を定めた憲法(三一条)上の要請であり、通則法、相続税法において、更正処分に理由附記の要件に関する規定が置かれていないことから理由附記が求められていないと解することはできないとし、これを前提として、理由附記のされていない本件更正処分は憲法三一条に違反し、違憲・違法なものである旨主張する。

しかしながら、相続税に係る更正処分に理由の附記が要請されていると解されないことは、原判決判示のとおりであり、そして、理由の附記を更正処分の手続上の要件とするかどうかは立法府の裁量に委ねられており、本件において、右立法裁量の逸脱があるとはおよそいえないものである。したがって、本件更正処分の通知書に理由附記がされなかったことに違憲・違法の問題が生じる余地はないといわなければならない。控訴人らの右主張も採用することができない。

以上によれば、控訴人らの請求を理由がないものとして棄却した原判決は相当であり、これを不服とする控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がなく、棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(平成一一年七月七日弁論終結)

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)

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